生みだすか伝えるか
数日前、お友だちお薦めの映画を見ました。主人公は作詞作曲をする音楽家なのですが、彼女の素直な気持ちが歌に込められていて、引き込まれました。気持ちを即興でも言葉と音楽にしてしまう技術に羨ましささえ感じました。即興ですから、言葉は多少乱暴だったとしても、そのときの感情が真っ直ぐにこめられているので、聞いている人の心をつかむ力はとても大きいように感じました。
自分で言葉を生みだす作詞家とは違って、翻訳・通訳業は、紡ぎ出された言葉を伝える役目です。通訳の場合は話し手の口になり、翻訳の場合は書き手の手となる。そういったものだと思っています。ですが、第一の目的は「伝える」ことですから、ただ単に言語を変換させて伝えたのでは、伝わらない場合もあります。
先日いただいた翻訳のお仕事は、日本語をそのまま英語にしたのでは、原稿に込められた雰囲気が全く伝わらなかったので、語彙を選択する際に、雰囲気が伝わるよう、ときには大げさであったり、ときには一語加えてみたりしました。当然のことですが、原稿の書き手ではないので、「いや、この言い回しの方がいいだろう」と思ったとしても、それを修正する役目ではないので、原稿を変更したりはしません。
言葉を生みだす役目と伝える役目、どちらが好きかと問われれば、私は伝える方だと思っています。書き手がどのような意図で、どのような気持ちを込めてその言葉を選んだのか、言語を変える際、どのような語彙を選べば、それらがなるべく忠実に伝わるのか、そのようなことを考えながらの作業が、楽しく感じています。時には原稿を読み違えてしまうことや、こちらの意図が伝わらず満足していただけない仕上がりになることもあります。なるたけ、そういうことが起こらないよう、いただいた原稿を読み込み、確認し、翻訳原稿をお返しします。その原稿がなんらかの形で世に出るとき、言葉に命が吹き込まれた気がするのです。その瞬間がたまらなく嬉しく、新たな翻訳に挑戦したくなり、今に至っています。
これからも、ひとつずつ、こつこつと伝えていきたいと思います。
*************
「えいごなんでも屋」お問い合わせ先
Email : harmonious_aroma@yahoo.co.jp
Facebook : www.facebook.com/eigonandemoya(えいごなんでも屋)
Twitter : 中村和香子 @eigonandemoya
0コメント